3.北欧の社会福祉政策の特色

北欧諸国における社会保障政策の特徴について、特に日本と異なると思われるいくつかの諸点についてここに述べることにします。

■高福祉・高負担

北欧の福祉については、「高福祉・高負担」という言葉がよく使われます。例えばフィンランドでは、税金と社会保障費でGDPの44.2%を占める(これはスウェーデン、デンマークにつづいて世界第3位)といわれるほど負担は大きいですが、普遍的な社会保障を基本としているので、社会福祉や保健サービスは誰でも公平に受けることができ、その料金は、無料または、かなり低く設定されています。これ以外に重要なことのひとつに、教育費が小学校から大学まで無料であることがあげられます。一方 日本の場合は、一人の子供が大学をでるまでに、600万円から1000万円の教育費がかかるといわれています。
民主主義の国では、国民の意思に反して高負担を強いることはできません。北欧では国民の政治や行政に対する信頼が高く、フィンランドは2002年の国際比較調査において(transparency international)、世界でもっとも政官の汚職の少ない国であると評価されています。ですから、国民の意思を示す政治的決定として、「高い税金を払っても、手厚い福祉」という選択がされていると考えることができます。
北欧と日本の65歳以上人口比の推移と税制の違い
65歳以上人口比
2000年→2030年(※1)
付加価値税率
(消費税)(※2)
租税負担率
(2000年)(※3)
国民負担率
(2000年)(※4)
社会保障費の
対GDP比率
(2000年)(※5)
スウェーデンスウェーデン 17.4%→25.2% 標準消費税 25%
食料品消費税 12%
54.4% 76.5% 32.3%
デンマークデンマーク 15.0%→23.6% 25% 69.0% 73.9% 28.8%
フィンランドフィンランド 14.9%→25.8% 標準消費税 22%
食料品消費税 17%
49.4% 66.6% 25.2%
ノルウェーノルウェー 15.4%→23.3% 標準消費税 24%
食料品消費税 12%
43.1% 55.9% 25.4%
アイスランドアイスランド 11.7%→20.1% 標準消費税 24.5%
食料品消費税 14%
53.5% 56.2% 19.5%
日本日本 17.2%→30.4% 5% 23.2% 37.2% 20.5%
【資料出所】
(※1) United Nations (2003) World Population Prospects: The 2002 Revision Population Database
(※2) 財務省 消費税などに関する資料 食料品に対する付加価値税適用税率の国際比較
(2004年4月現在)
(※3) (※4)財務省 国際比較に関する資料 OECD国民負担率(対国民所得比) (2004年4月現在)
(※5) NOSOSCO 21:2003 日本/厚生労働省「国民の福祉の同行」2003年
【関連用語説明】
租税負担率: 国民所得の額に対する国税と地方税の総額の割合。
国民負担率: 1年間に納めた税金と、それ以外に納めた税金と、それ以外に支払った年金や医療保険などの保険料とを合計した額が、収入のうちどれくらいの割合になったのかを示した数値。
国内総生産: GDP(国内総生産)とは、日本国内で1年間に新しく生みだされた生産物やサービスの金額の総和の事。

■北欧における社会サービスの考え方

社会サービス(ソーシャルサービス)とは社会福祉のサービスを指します。北欧での社会サービスとは個人が障害・疾病に起因する不自由さにもかかわらず、自立して日常生活を送れるよう支援する事だと考えられています。つまりサービスが提供するものは「ケア」ということになります。
自立については、「決して社会や他人に頼らず生きるということではなく、自己決定権をもって生活すること」と考えられています。
フィンランドのシピラという研究者は、社会サービスは次のように規定しており、これが一般的な考え方です。(Sipila, J. et al 1995. Sosiaalipalvelujen Suomi.,WSOY)
1. 個人が必要とするサービスで、その利用は個人の自由意志に基づき、公権力を用いて強制的に執行することはできない。
2. 純粋な営利的なケアサービスは社会サービスの範疇にふくまれない。社会サービスは、それを必要とする人が、所得に関係なく受けることができるものであり、料金を支払うとしても、全額を支払う必要はない。
3. インフォーマル(家族、ボランティア等)なサービスは、社会サービスの分野に含まない。それは、社会サービスにおいてケアを提供する人と受ける人は対等な関係であるべきと考えられるからである。社会サービスはインフォーマルなケアの負担と束縛を軽減するものである。

また、北欧の社会サービスについては、次のような特徴があるといわれています。

1. 高齢者ケアと保育が社会によって行われていること。
2. 女性が男性と同じように働いているので、中流階級が公的サービスを利用していること。
3. 所得保障は国、サービスは自治体というように責任分担が明確であること。

■フィンランドの地方自治体について

フィンランドの風景
基礎自治体(市長村)は、基本的に、教育、文化、社会福祉、保健、環境、土地利用、都市計画、エネルギー供給、地域開発、消防、防災など、住民に対する全てのサービスに責任を持ちます。この中でも、財政・職員数からみて最も重要なサービスといえるのは、社会福祉・保健と教育・文化サービスです。自治体の職員数は約41万人(2000年)ですが、その内訳は、保健事業28.6%、社会福祉27.4%、教育文化26.6%で、合計82.6%を占めています。同年の自治体の予算の44%が社会福祉・保健費、23%が教育・文化費と全体の67%をこの2分野で占めています。それは、これらのサービスを公的に供給しているためです。
自治体が住民の生活にかかわる幅広いサービスを行っているため、地方議会の議員定数は大きく、住民代表による議会民主主義を重視する伝統があります。フィンランドの地方自治体数は448(2002年1月現在)です。首長は直接選挙ではなく、議会が任命します。5つある県は国の出先機関なので、議会はなく、知事は大統領任命の国家公務員です。国会議員と地方議員は兼任でき、共に任期は4年です。地方議員はボランティア的な名誉職であり、ほとんど無報酬に近いのですが、立候補者は多く、例えばヘルシンキ市の2000年の地方選挙では、85人の定員に対して、立候補者は800人以上でした。フィンランドの選挙権と被選挙権は18歳になると獲得できます。つまり18歳(高校3年生)に達すれば、国会選挙および地方選挙において立候補できるので、若い議員も多数います。このほかヨーロッパ連合(EU)議会議員も選出します。女性の議員数は、地方、国政においても34-38%を占めています。
なお、フィンランドだけではなく、北欧では地方分権が高度に発達しています。フィンランドの自治体は地方税額を定めることができ、それが歳入の52%を占めています(2000年)。国は教育文化、社会福祉・保健については、一人当たりの計算に基づいた包括補助金を交付し、自治体はそれを法律に定められている範囲で自由に使用することができます。国の指導監督は包括補助金制度が導入された1993年に大幅に軽減されました。
日本日本 デンマークデンマーク フィンランドフィンランド アイスランドアイスランド ノルウェーノルウェー スウェーデンスウェーデン
全労働人口にしめる
公務労働者の割合
7%
(1996年)
26%
(1997年)
28%
(1997年)
23%
(1996年)
37%
(1995年)
38%
(1996年)
【資料出所】
International Labour Organization - ILO Web site:
「Statistics on public sector employment: Methodology, structures and trends」

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