5.フィンランドの社会福祉サービス②

■フィンランドの高齢者ケア

デイケアで工作をする高齢者の方々
【高齢者化する社会】

フィンランドの高齢化率はEU諸国の中でも、もっとも速いスピードで進んでおり、2000年に15%、2010年に約22%2030年には25%に達するといわれています。日本もOECD諸国の中で最も急速に高齢化が進んでおり2000年に17.5%、2010年に約27%、2030年には28%になると予測されています。高齢化率の上昇はフィンランドにとっても日本にとっても、大きな社会問題のひとつであり両国とも女性の平均寿命については80歳を越えています。
【高齢者対策】

フィンランドの高齢者政策の目標は、1982年の国連の勧告を基盤とし、高齢者が幸せな生活を送れるようにすることにあります。具体的には高齢者が出来るかぎり自立して暮らし、良いサービスを受けて高齢生活を送れるようにすることで、そのために、高齢者の経済的自立、自己決定権、社会的統合と公正さを保障することが大切と考えられています。
高齢者政策の中で最も重要視されているのは、所得保障と社会サービスです。国は法律を制定し、年金、給付などの所得保障を行います。一方、サービスは地方自治体に責任があり、それぞれの自治体は、財政と政策の優先順序に応じて、サービスの実施方法とその規模について決定します。フィンランドでは、すべての市民に年金が保障されています。一定の労働生活にあった人は労働年金(厚生年金)を受け取りますが、家庭外で労働していなくとも、国民年金は最低所得保障としてすべての市民が受け取る権利があります。
高齢者のケア(社会・保健サービス)に関する特別法は存在せず、1982年制定の社会福祉法がすべてのサービスを包括しています。また国民健康法、特別医療法が、自治体住民の保健ケアを保障しています。ケアは原則として税金で行われており、サービスの内容と所得によって料金もかかることもあります。高齢者ケアについての政策は、1980年代から施設から在宅へとの転換が強力に行われこの傾向は1990年代の地方分権後により進展しました。
【高齢者ケアの内容】

ケアについては、ニーズに基づいてサービスが決定され、一般に自治体の保健・社会福祉関係者がチームとなり、本人・家族との話し合いによって決められます。ケアは、自治体直営、または自治体に委託された第3セクターによって行われます。
ケアサービスには次のような種類があります。一人の高齢者がいくつかのサービスを受けることも可能です。①~⑤までは社会サービス、⑥⑧⑨が保健ケア、⑦がその組み合わせとなりますが、一般に「縫い目のないケア」として社会サービスと保健ケアを統合する努力が払われています。
ホームヘルプサービス (自宅にヘルパーが通い、身体介護および家事を行うサービスと、サービスセンターにおけるデイケア、配食サービスなども含む)
親族介護給付 (高齢者を介護する親族、高齢者と自治体間で契約を結び、親族に介護給付が支払われる)
サービス付き住宅 (高齢者専用のサービスのついているバリアフリー住宅。家賃を支払い、必 要なサービスを契約し、料金を支払う。)
住宅改造補助(ニーズがあり、かつ低所得高齢者の住宅改造を自治体が提供する)
施設サービス (老人ホーム、最後の手段であり、入居すると所得の80%を支払うが、すべてのケアを受けることができる。ショートステイもある。)
訪問看護(ケアプランにもとづき、保健センターから自宅へ派遣看護が行われる。)
ホームケア(訪問看護とホームケアを組み合わせたサービス)
デイホスピタル(退院後の高齢者、または疾患を持って自宅に住んでいる高齢者の為のデイケアを病院で行う。)
施設ケア(保健センター病院への入院)
フィンランドでは、1970年に子の親に対する扶養義務は廃止されました。女性が男性と同じように労働参加している国なので、ケアは社会化されていますが、親と子が近隣に住んでいる場合は子供が余暇の時間に親のケアに行くのは一般的です。世論調査では、フィンランドの高齢者は、できるだけ自宅で暮らし、それが不可能になった場合は、家族を持ち職業生活を送っている子に頼るよりも、公的なサービスを受けて暮らしたいという意思を示しています。
フィンランドの高齢者ケアについて詳しくは、以下の文献をご参照ください。
山田眞知子著「北欧の高齢者ケアシステム」
英和良之助編著『高齢者福祉論』高菅出版 2002年 第8章
山田眞知子著「フィンランド」
鬼崎信好・益田雅暢・伊奈川秀和編著『世界の介護事情』中央放棄2002年 第7章

■フィンランドの障害者ケア

フィンランドの、1987年に制定された、「重度障害者のサービスと支援に関する法律」は、当事者も参加して作成された、当時、世界でもっとも進んでいるといわれた障害者ケアに関する法律です。この法律では、「障害者」の定義を、診断学上ではなく、日常生活との関係においてとらえていることが特徴です。また、次の諸権利が障害者に保障されています。そして自治体にこれらのサービスの供給義務があります。
1)移送サービス (フリーの時間のために月に最低18回)
2)通訳サービス (重度の視聴覚障害者は年240時間、その他の障害者は年120時間)
3)住宅改造と付属する福祉機器の提供
4)サービスつき住宅の提供
このほか、自治体は個人付きヘルパーのサービスを供給することができ、時間数はニーズに応じて提供されます。(例えば、ヘルシンキ市の場合、一般には週40時間が基準のようです。重度の障害者の場合は55時間になるケースもあり、呼吸器を使うなど、医療上の必要に応じて1日24時間ヘルパーがつく特殊なケースもあります。)
また、知的障害者、精神障害者には、それぞれの特別法で権利が保障されています。障害者ケアについても、高齢者と同様に施設ケアからオープンケア(日本でいう在宅)への移行が進んでおり、障害のある児童はほとんど施設に入っていません。障害のある子供を親が自宅で育てることを可能にするために保育、所得保障、ケア、リハビリなど様々な支援政策が行われています。自宅で育てることが可能でない場合は、里親制度があります。また養護学校は、今日では普通校に統合されています。

■フィンランドのリハビリテーション

リハビリテーションは、北欧の社会福祉・保健政策において非常に重視されています。
その理由は次のように考えられます。
リハビリによって、個人のもつ障害等の症状が改善される効果があり、たとえ症状の大きな改善がみられなくとも、個人の生活の質が向上することが期待される。
リハビリの効果により社会復帰が可能になり、国民経済にプラスになる。
特に、職業生活にある市民にリハビリを行うことによって、病気を予防し労働生活の向上を生む。また、年金生活への早期移行を防止することにもなり、年金保障を軽減できる。
フィンランドのリハビリテーションは、保健行政、社会福祉行政、社会保険院、労働行政、民間保険会社などが提供しています。高齢者を含む一般市民の医療リハビリは自治体の責任ですが重度障害者のリハビリは国(社会保険院)の責任となっています。そのほか国は、特例法に基づき、傷痍軍人従軍者に対して手厚いケアとリハビリを提供しています。
保険センター、保険病院、および老人ホーム、高齢者サービスセンターなどの施設には、通常リハビリの担当者が勤務し、リハビリ室、温水プールなどの設備が整っています。社会的リハビリ(適応訓練;障害と共に生活していくことを目的とした訓練)の多くは、国(社会保険院)や自治体が当事者団体が運営するリハビリテーション施設に委託して行われます。例えば、リューマチ、呼吸器疾患、MS病など多くの患者(障害者)団体がリハビリテーションセンターを運営し、サービスを提供しています。
職業的リハビリは国(社会保険院)または企業が費用を負担します。その目的は、労働者が心身ともに良好な状態を保つことによって、病気等による欠勤を防止し、できるかぎり退職年齢(2004年現在一般に65歳)まで労働することを可能にすることです。
リハビリと並行して、自治体は住宅改造、および福祉用具支給のサービスも行っています。
また国(社会保険院)からも、必要と認められた場合、教育や職業生活にかかわる福祉機器(例えばコンピューター等)の支給があります。

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